久喜市と幸手市を結ぶ県道153号線が通る、埼玉県久喜市青葉地区。
流行りのコーヒー店やファミリーレストラン、コンビニ、スーパーなどの目新しい店舗が立ち並ぶ通りに、いっぷう変わった建物がある。
「自家焙煎珈琲屋どんぐり」。
昭和の時代から続く、喫茶店の名店だ。
ドングリの形をしたログハウス。その建物に覆いかぶさるようにはえる木々。
まるで、童話にでてくる森の奥の中の小屋を切り取ったような外観だ。
そして、おおきな道路に面した駐車場のはじっこには、ガラス張りの焙煎室がある。
コーヒーへのこだわりと愛情が、外にまで溢れているようにさえ感じる。
木の温もりで満たされた店内は、天窓からの光と柔らかな照明で優しく照らされている。
その店内は珈琲の香りが漂い、中南米の民俗音楽であるフォルクローレが珈琲を楽しむムードを一層ひき立ててくれる。
店内は、珈琲好きにはたまらない、まさに極上のリラクゼーション空間だ。
マスターの竹花弘美さんが、「木のぬくもりがある店を」との強い想いで、この辺りにゆかりのある方々に土地探しをお願いし、たまたま見つかったこの場所で、35年前に夫婦で店を開いた。この店をはじめた頃の話をうかがうと、竹花さん夫婦が感慨深げに語ってくれた。
「このあたりは何にもなかったんですよ。周りは梨畑ばっかりで、ゴールデンウィークのころになると白い花がたくさん咲くんです。いまは家や店がたくさんできて、だいぶ景色も変わりましたね。でも、35年間もよくやってこれたなぁ。」
どんぐりは、自家焙煎の新鮮なコーヒーが楽しめるのが大きな特徴だが、この敷地内にある自家焙煎室ができたのは、店をはじめて数年ほどたってからだという。店をはじめて数年も経ってから焙煎を始めたきっかけはなんだったのかを訪ねてみると、マスターからこんな答えが返ってきた。
「実は、わたしは、どうしようもできない大きな悩みを抱えていたんですよ。
コーヒーが飲めなかったんです。飲むと胸焼けしたり、胃もたれしたり、食欲がなくなったりして。
喫茶店でコーヒーを出す人間として、致命的ですよね。
しばらくは、コーヒーは自分の身体に合わないのかなとずっと思いながら、自分が飲めないコーヒーをお客さんに出していたんです。
ところが、ある日、都内の自家焙煎のお店でコーヒーを飲んだら、おいしく飲めたんです。体調も悪くならなかった(笑)。
それで、よく話をきいてみると、自分が身体に合わないと感じていた理由は、豆が良くなかったり、不純物が多く入っているためだということがわかったんです。
それからですね、自分で焙煎するようになったのは。
焙煎室をつくってからいままで、店が休みの時以外は、ほぼ毎日、朝4時に起きて焙煎しています。」
30年にわたり、産地や農場にこだわった上質な生豆を中南米から仕入れ、さらに欠点のある豆を手作業で取り除き(ハンドピックという)、自分ら焙煎し、一杯ずつ丁寧にドリップで抽出したコーヒーを提供しつづけている。いままでやってきて一番よかったことを伺うと、奥様がこう答えてくれた。
「やっぱり一番は、人とのつがなりですね。こういう商売をやっていると本当に感謝しなきゃいけないって思うんです。お客さんがいて、スタッフがいて、皆さんに支えられて35年間やってこれた。」
感謝の言葉が自然と出てくる。だからこそ、35年もの間、愛され続けてきたのだろう。
ふと気づくと、ランチタイム前にも関わらず、コーヒーを楽しもうとする人たちで席が埋まっていった。
コーヒーにこだわる竹花さん夫婦は、これから先も、変わらずに、こだわりの一杯を提供しつづけていくのだろう。
竹花さん夫婦のコーヒーへのこだわりは、まさに、
「時代が変わっても、変わらないもの」
だった。
自家焙煎珈琲店 どんぐり
〒346-0013
埼玉県久喜市青葉4-1-20
電話:0480-23-1418
駐車場あり
営業時間 10:00~19:00
定休日 月・火(祝日は営業)
*店内禁煙
公式ホームページ http://donguricoffee.com/
オンラインショップ http://www.47club.jp/13M-000057uwe/
[編集後記]
どんぐりができて、ちょうど35周年の記念日。
そんな記念すべき日に、運良く取材させていただくことができた。
偶然の重なりが、人との出会いを一層豊かなものにしてくれる。勝手ながらも、不思議な縁を感じることができた。
また「こだわりの一杯の珈琲」を飲みに行く日は近いだろう。
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